「実業界における諸体験に基づく機械工学の応用経験」
(第7回基幹座談会「学生時代と社会人生活を語る座談会;MN〜M㉔・PD」(報告))

 2014年から回生・年齢を跨いだ機械クラブ全体の会員間の親睦と交流を増進するための集いとして発足した基幹座談会「学生時代の思い出を語る座談会」も回を重ね、今回で7回目(2019年5月18日開催)となり、出席者は、今回の6名を含め、延べ98名になりました。
 今回は、「学生時代の思い出」と共に、出席者から「実業界における諸体験に基づく機械工学の応用経験」についてお話頂き、その後参加者とともに意見を交換しました。
【出席者の応用経験】







 
【意見交換】異なる業界に共通する経験について意見を交換しました。( )内は出席者名、敬称略
  1. 製品企画に関して
    • 企業に入って製品企画の経験をしたが、大学で勉強した全学科を組み合わせてほとんど全部を自分でやらなければならなかった。現在、マーケティングに関する学問は製品開発の一環として確立しているが、学生時代には経験しておらず、マーケティングに関する学問の必要性を感じている。勤めた企業において、シニアになって開発責任者を務めたが、大学では市場性やマーケティングに関する学科はない。企業では必要性が高く、今後大学で学ぶ機会を取り入れたらよいと思う。(漆崎)
    • マーケティング(市場調査他)に関して、大学では考え方、方法などは教えられる機会がなかった。企業に勤めてから自分で勉強した。(山田)
    • マーケティングは昭和40〜50年代当時の大学では、文系がやっており、エンジニアが担当する意識はなかった。当時と今では考え方が異なってきている。(坂口)
    • 当時の企業においては、マーケティングは営業に任せていた。(井宮)
    • 営業が製品企画を発想できないものはエンジニアが担当することになる。(坂口)
    • 研究部門のマーケティングは営業ではできない。(エンジニアが担当する。)(中瀬古)
  2. 設計開発に関して
    • 入社当時、その時代にもてはやされていた空気輸送を担当したが、データを整理して方向性をつけるとか、研究テーマを絞り込むとか、の重要性を認識した。ロジスティクスでは、たとえばDistribution Automation(アマゾンのような配送システム)のようなシステムでは設計要求が厳しく、システムが絶対に止まらないことが必須であるが、物事を素早く整理して結論を導くことが要求される。(漆崎)
    • 4回生の時平板曲げのアナログシミュレーションをやり、シミュレーションが好きになった。この時の経験が蒸気タービンの設計で動特性解析による蒸気タービンのガバナ制御機構を開発できたものと思う。動特性解析では結果の実証が重要である(開発した手法は現在も使用されている)(堀)
    • 自動車のモデルチェンジではプレス加工のための金型設計が必要となる。金型設計では強度計算などのために教科書を読み返した。(中村)
    • ドリルの新設計では有限要素法のプログラムを開発した。タイヤの開発・設計ではケミカル、物理などの知識が要求され、フーリエ解析に基づくシミュレーションも経験した。知りたいという探求心、幅広い問題点への取り組みが重要である。(山田)
    • リサイクルディーゼルエンジン(RE)の開発には酸素濃度応答や排気循環の解析が実現性のカギとなる。REはS50年代に海底100mで非常用エンジンとして使用した(常次)
  3. 生産・生産技術に関して
    • プレスで重要なのは成形性の予測であるが、結果はうまくいかず、トライアル&エラーの繰り返しや経験の蓄積が大切であった。この難しさを克服するには、お客様(後工程)が大切であるというモチベーション(やる気・根気)が支えとなった。学問も大事であるが、やる気・根気はもっと重要。(中村)
    • 真空焼入炉の開発では新入社員ですべてを担当した。自分でやっていたので他人に指示を与えることができたが、間違いもあった。物理屋出身で図面の描けないエンジニアもいた。40年前の入社当時、生産技術は花形であった。マーケティングは欧米の真似をしていた。(山田)
    • 20年ほど前に生産技術課長になったが、今日では生産技術に行きたがる人はおらず、設計に行きたがる。生産技術に配属すると5月に退社した者もいた。生産技術に対して工学は何ができるかと言えば、各種記録や管理データが多くの部署にバラバラに散在しているのを一元化することが必要で、これには工学(のセンス)が必要。問題が発生したとき、その問題に対する要因を抽出する力をつければ生産技術が面白くなる。(中瀬古)
    • タイヤ・ゴム製品は5年前ではカーボンのボイドなどのシミュレーションができなかったが、現在はシミュレーション技術が進み、CAEも進歩した。うまくいったときのデータを如何に蓄積するかが大切である。タイヤ・ゴムは高分子の世界であったがメカニカルな要素を入れないとうまくいかなかった。データベース化を進め統計的に見ることが必要であり、今後、総合的なエンジニアリング力が求められ、この傾向は一般企業においても同様と考える。(中瀬古)
  4. 解析に関して
    • 構造や運動のシミュレーションはスパコン(スーパーコンピュータ)を使えばかなり詳しくできる。ポスト「京」(「富岳」に決まった由)の産業利用セミナーが7月21日午後に開催される。ポーアイの神大の拠点「計算科学教育センター」は地域産業用のスパコンに関して重要な役割を果たしており、最近では阪神高速の全ルートを対象にあらゆる要素を入れて、南海トラフ地震でどうなるかのシミュレーションが計画されている。(中瀬古)
    • 硬X線(金属)及び軟X線(ゴム)に関する技術が大幅に進歩し、Nuclear Magneticで化学構造を見る技術も発展した。(中瀬古)
    • ビッグデータはどのようにして集め、どのように整理するのか?ビッグデータは創薬で1,000万、難病で1,500万と言われており、治験段階でオープンにするとのこと。たんぱく質やゲノム情報のデータベース化ではAIかシミュレーション、いずれが良いのか?(坂口)
    • ダンロップではデータベースの一元化は出来ていない。ただし、全社で一元化の動きはある。企業でできないものはアカデミアでやることになる(奈良先端科学技術大など)。国プロでやることも多い。医薬品関係ではワンストップの組織が立ち上がっている。(中瀬古)
  5. 労働安全に関して
    • 労働安全については大学で教えてもよいのではないか(中村)
    • 会社には安全担当アドバイザー制度があり、特に新入社員を対象に体感教育を行っているが、けがをするのはたいてい入社後3年以内の者である。(山田)
    • 安全に関して他大学で講義している。身に沁み方を伝えるのは難しく、実例を出すと逆効果の場合もある。神戸大学工学部機械工学科のカリキュラムで安全工学I及びIIを取り入れているようだが?(中野)
    • それぞれ8コマ必修科目としている。イメージを持っていないと話が伝わらず、大学でやることの難しさを感じており、車の運転の話をしている。(浅野)
    • 大学の教育ではシミュレーションしかできないのではないか。(坂口)
    • 労働安全対策は企業に属する限り避けては通れない。マネジメントを担当する立場に立つと、対策が必要となる。原子力は定検で数千人規模の作業者が入るので、労働安全マネジメントシステム(厚生労働省推奨)を導入した。それでも労災は起こるべくして起こる難儀な問題と思う。(玉屋)
    • 安全を考慮しないといけないことを大学で教えるべき。(中瀬古)
    • フェールセーフ、フールプルーフなどの概念も大切。(酒井)
    • 新製品では事故が起こる構造をチェックし(機械工学的なチェック)、安全設計ができているか評価している。(漆崎)
  6. 基幹座談会に関して
    • 本座談会は現役を退いた卒業生が対象で経験を語った結果はホームページで学生に伝わるとのことであるが、直接的に在校生に伝えることもできるのでは。(漆崎)
    • サマーセミナーなどを開いて学生と社会人が会話することも考えられるのでは。(山田)
    • 講演経験から、一方的にしゃべり、それを聴くだけでは学生にとって面白くないだろう。短時間でもよいから学生と社会人のパネルディスカッションをやればよい。(中瀬古)
    • 学生に如何に展開するかが大切。リクルーターをやったことあるがなかなか来てくれなかった。
      工場見学で学生が卒業生と会えば効果的と思う。(中村)

 神戸大学卒業後40年以上の企業における応用経験は各人千差万別ですが、活発な意見交換の結果、共通する意見が語られました。これらは、機械クラブの知的財産であり、現在活躍されている社会人の会員並びに学生にとっても傾聴に値するものでした。
 出席者名簿と集合写真をご参照願います。
 なお、事前に、学生時代のどのような経験が、卒業後の社会人生活にどのように役立ったのかのアンケート調査をさせて頂きました。(詳細は、添付アンケート調査方法を参照願います。)
 そのアンケート結果(アンケート回答結果を参照願います。)をご参照ください。

 座談会終了後、会場を工学会館に移して親睦会を開催し、出席者の皆様と、機械クラブ役員、座談会部会員一同、親しく和やかに食事とお酒で楽しみました。
 特に中村 敬一氏M㉑の「津軽三味線」の演奏と酒井善正氏の「イヨマンテの歌」で盛り上がりました。
 遠くからご出席を頂いた今回の座談会も無事終えることが出来ました。これも一重に、ご出席くださった皆様方並びに関係各位の熱意とご尽力の賜物と感謝いたしております。ありがとうございました。
 なお、これまでの座談会と同様、当日話された思い出を中心に寄稿文として当部会にお寄せ頂くよう、ご出席の皆さんにお願いしました。出席された皆様全員からのご寄稿をお待ちしております。
(実行委員長 玉屋 登)