<平成18年度KTC機械クラブ>
「若手研究者は今」講演会(報告)
 開催年月日 : 平成18年12月9日(土) 15:15-17:00 
 開 催 場 所  : 工学部5W-301講義室 

今年度2回目の機械クラブ理事・代表会議に引き続いて,標記講演会が開催され,20数名の機械クラブ会員,ならびに教職員が出席して拝聴した。 また,講演会終了後は和風レストラン「さくら」において,和やかな雰囲気のもとで懇親会が開催された。

◆講演T:ナノ〜サブミクロン領域の材料強度評価 −計算材料科学の展開−
            (講師:屋代 如月 助教授)
講演要旨
 近年のコンピュータの飛躍的な発展は,材料科学・工学の分野において,従来の実験観察手法によらず,計算機上の仮想 シミュレーションにより新事象を見出そうとする「計算材料科学(computational materials science)」と呼ばれる分野 の発展をもたらしている.分子軌道法や平面波バンド計算手法などの電子論的アプローチ,モンテカルロ法や分子動力学 などの原子論的アプローチ,離散転位動力学や準連続体力学(quasi-continuum)などのメゾスケールアプローチなど,種々の スケールで多様なシミュレーション手法が提案され精力的に研究がなされている.講演者のグループでも,代表的な耐熱 超合金であるNi基単結晶超合金の特徴的な微細析出構造について,母相/析出相界面の原子構造・強度,析出構造中の転位 挙動等の新しい知見を得るべく,種々のスケールでの数値シミュレーションが行われている.
 講演では,まず電子論的アプローチである第一原理バンド計算によるAPB(逆位相境界)エネルギーの評価について説明された. 原子核の位置と種類のみを必要情報とし,量子力学に基づいて原子間の相互作用を精密に評価する第一原理計算は,試行 錯誤的な実験を行わずに材料設計を可能とするポテンシャルを秘めている.しかしながら,計算量が極めて膨大となるため 現時点では数十〜数百原子程度しか扱うことができない.限られた計算条件の下で,実現象の鍵となる物性を評価し,上位 スケールのシミュレーションに反映させることが肝要である.そこで講演では,求めたAPBエネルギーを取り入れた離散転位 動力学シミュレーションについて概説された.離散転位動力学は,無限連続体中の転位を多数のセグメントに分割(離散化) し,各セグメントに作用する力を転位論に基づき評価することで転位の運動を追跡する手法である.転位が析出相に侵入 する際の障壁であるAPBエネルギーを取り入れることで,析出構造中の転位挙動をシミュレートできることが示されるとともに, 転位論=連続体近似に基づく本手法の限界,すなわち,原子の存在を考慮できないために転位芯と界面転位の切り合い等の 現象には不適切であることが示された.
 ついで講演では,原子に作用する力をポテンシャル関数で近似し,膨大な原子の運動を 陽に扱う分子動力学法による一連のシミュレーションが紹介された.パソコンでも数十万〜数百万原子の運動が観察可能な本 手法は,実験観察ができない材料内部の変形挙動について,ナノ〜サブミクロンスケールでの新しい現象を見いだすことが 可能である.半整合界面のミスフィット転位の芯構造,転位の切り合い等が原子構造の詳細な観察により明らかになることが 示された後,最後のトピックとして,有限要素法をベースとしながら,構成式の代わりに上述のポテンシャル関数を用いること で,界面近傍など必要な部分では原子1つ1つを有限要素ノードとし,離れた部分では粗視化する準連続体力学によるシミュレ ーションについて触れられた.

◆講演U:機械構造物の振動制御と健全性評価 −スマート構造工学によるアプローチ−
            (講師:安達 和彦 助教授)
講演要旨
 講演者は,振動工学,スマート構造工学と医用工学の三つの研究領域で 研究を進めておられる.今回の話題提供では,スマート構造工学に基づく機械構 造物の振動制御と衝撃検出について紹介された.スマート構造は,その中に人 間の筋肉,神経,頭脳に相当するアクチュエータ,センサ,コントローラを 備えた構造と定義されている.
 スマート構造の研究では,圧電材料の圧電効 果と逆圧電効果を利用して,機械振動に対するセンサとアクチュエータを構 成する場合が多い.スマート構造による振動制御では,従来の機械式動吸振 器を圧電素子とシャント回路に置換した圧電ダンパ(piezo- electric damping) の研究動向を簡単に紹介された.
 さらに,近年開発が完了し市販されている圧 電コンポジット(Macro- Fiber Composite Actuator)の詳細が紹介された.圧 電コンポジットは圧電セラミックスを素材としていながら,圧電セラミック スを細線状に機械加工してプラスチックフィルムでラミネートすることによ り柔軟性を確保し,櫛状電極を配することで圧電効果と逆圧電効果を従来の 圧電セラミックスよりも大きくすることに成功している.
 続いて,講師が 提案されたシャント抵抗の設計方法の紹介と,圧電コンポジットを用いた 圧電ダンパの振動抑制効果が紹介された.一方,機械構造物の衝撃検出につい ては,構造物のヘルスモニタリング(Structural Health Monitoring)の考 え方を紹介された後,時間反転操作(Time-Reversal Processing)に基づく衝 撃検出の方法と実験結果が紹介された.アルミ平板をインパルスハンマで打撃 した場合について,平板表面に取り付けた9個の圧電素子からの電圧信号の時 間軸を反転したものを入力とし,有限要素法で平板中の波動逆伝播解析を行 うことにより打撃位置と時刻が推定可能であることが示された.