<平成25年度機械クラブ>
「若手研究者はいま」講演会(報告)
 開催年月日 : 平成25年12月14日(土) 15:00-17:00 
 開 催 場 所  : 工学部C1-301講義室 

 白井 克明 助教と山田 香織 助教を講師に迎えて、恒例の「若手研究者はいま」講演会が開催されました。 また、講演会終了後は講師のお二人も参加され、LANS BOXで和やかな雰囲気のもとで懇親会が開催されました。

◆講演T:流体の高分解能計測法の開発と応用に関して
            (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 白井 克明 助教)
講演要旨
前半はレーザーを用いた流体の高空間分解能計測についてお話させて頂きました。

熱流体は、身近な自然現象から産業利用に至るまで様々な場面に存在し利用されています。産業においては更なる品質向上を目指した高度な熱流体制御のため、研究開発においては複雑現象の解明のため、計測を行う必要があります。

熱流体現象には幅広いスケールが存在し、惑星のような巨大なものから針の先のようなマイクロ・ナノに至る小さなスケールまであります。着目している現象を的確に把握するためには、そのスケールでの熱流体挙動を把握する必要があり、場合によって高い空間分解能を要する計測場面が存在します。小さなスケールの運動を、高分解能でしかも物理的プローブを挿入することなく非接触で計測するには、特にレーザーを用いた光学計測が有用です。

流体のレーザー流速計に関して解説し、光学計測における空間分解能の話をさせて頂きました。光学計測では、一般に開口数(NA値)を上げて焦点をできるだけ小さく絞ることで高分解能を実現します。ところが、干渉縞を利用するレーザードップラー流速計(LDV)の場合には、NA値を高めようとレーザービームを小さく絞っていくと逆に干渉縞の不均一性が増して流速計測の不確かさが増大するという問題があります。つまり、空間分解能と速度分解能には一定の関係があり、それが高空間分解能計測を非常に難しくしています。

次に、速度プロファイルセンサーという新しい計測手法をご説明させて頂きました。この方法は同じく光の干渉を利用しますが、図1のように2種類の干渉縞を用いることにより、従来のレーザードップラー流速計では困難だった空間分解能と速度不確かさの問題を解決しました。原理は、平行な干渉縞を用いる従来の方法に換えて2組の扇形の干渉縞を形成させ、そのドップラー周波数比が計測体積内の軸方向位置に依存することを利用します。これにより、測定体積内に空間分解能を実現しています。典型的なプロファイルセンサーでは、空間分解能5ミクロン、速度分解能0.5%程度が達成可能です。

この速度プロファイルセンサーの応用例として、層流境界層の速度分布および細線前方の加速度分布、ハードディスクドライブ(HDD)モデル内部の複雑流れに関する計測例などご紹介させて頂きました。特にHDD流れでは、これまで難しかったディスク・シュラウド狭隘部の流れ挙動が高分解能計測によって可能になった(図2参照)ことと、乱流速度成分の計測結果は空間分解能に大きな影響を受けることなどが分かってきました。

後半は、数年に渡ったドイツでの研究生活に関しての話をさせて頂きました。最初に行ったハノーファー・レーザー研究所(Laser Zentrum Hannover. e.V.)およびその後のドレスデン工科大学(Technische Universitaet Dresden)での経験の一端をご紹介させて頂くとともに、国や文化、分野を乗り越えた仕事の難しさと醍醐味など、お話しさせて頂きました。また、その中で学んだことをご紹介させて頂きました。

貴重な講演の機会を頂きましたことをKTCMの皆様に深謝いたします。



図1 速度プロファイルセンサーの原理(2種類の扇形干渉縞の組み合わせによって、測定体積内に空間分解能を実現。
空間分解能5ミクロン、速度分解能0.5%程度が実現可能。)


図2 速度プロファイルセンサーを用いたハードディスクドライブ(HDD)モデル内の流れ計測の例(ディスク・シュラウド間の狭隘部の周方向速度成分を計測。
通常のLDV(左図、緑十字点)では捉えられない2個の速度ピークが、センサーのもつ高分解能によって的確に捉えられた(左図、黒丸および青四角点)。)

◆講演U:擬態語による感性的な動くロゴマークのデザイン
            (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 山田 香織 助教)
講演要旨
近年、情報技術等の発達により様々なメディアが登場し、多彩な表現が可能となっています。例えば、インターネット上に見られるロゴマークやアイコンは動画像を伴って表現されることも増えています。そのようなロゴマーク等の動きについて、どのようにすれば、人々の感性に響くような動きをデザインできるかについて研究を行っております。本講演では、デザイナがもつイメージを反映させて動きを生成する方法と、それによって生成された動きのデザインについて紹介させて頂きました。

動きそのものというのは、実物を見せることなく文字や静止画で書き記したり伝えることが困難です。また、まだ存在していないものの漠然としたアイデアやイメージを直接表現するための方法もないのが実情です。そこで擬態語を介して、それらを表現し、同時に具体的に動きのデザインを生成する方法を提案しました(図1)。擬態語とは、「カエルが『ピョン』と跳ぶ」、「『カチカチ』に凍る」のように実際には音がしないのに、動きや状態を言葉の音で表した言葉です。新しい動きのイメージを表現するためには、新しい擬態語が作られると考え、擬態語を音韻情報(母音や子音など)によって分解し、それと似た既知の擬態語を通じて既知の動きを参照する方法を提案しました。既知の動きを合成することで新しい動きを生成する方法および計算機システムを構築しており、これらを用いてデザインされた新しい動きを紹介させて頂きました(図2)。

最後になりましたが、このような発表の機会を与えて下さったKTCMの皆様に感謝申し上げます。


図1

図2