平成27年度KTCM「先輩は語る」講演会(報告)
併催:機械クラブ国際活動奨励賞受賞者の成果発表

日 時:平成27年6月12日(金)8時50分〜11時00分
場 所:5W-301
司 会:白瀬 敬一 教授

講 演 会















講演題目 : 「自然災害から都市を守る」
講      師 : 西田 英士 氏(大阪府都市整備部河川室) 
講演内容
いかにして”自然災害から都市を守る”か。本講演会では、西田氏がハード・ソフトの両面から取り組んでおられる災害対策についてわかりやすくお話しいただいた。まず導入として、インターネットを通じて誰でも閲覧できるハザードマップ(防災マップ)を使って、三宮などの都市部や大学周辺の洪水・津波・土砂リスク評価マップをご紹介いただいた。よく知っている街が対象なのでわかりやすく、意外なところにリスクがあることに気づかされた。神戸大学は土砂災害の避難所に指定されている。これはソフト面での災害対策のひとつである。

さて、ここからが本題である。前半はハード面、後半はソフト面でのお話であった。 ハード面では、洪水・高潮・津波からいかに都市を守るか、すなわち、雨をいかに効率よく海に流すか、津波・高潮をいかに防ぐか、その取り組みが紹介された。 これらは、貯める(ダム、治水公園)、流す(地下河川)、止める(防潮水門)に大別されている。なかでも大阪の地下河川事業は全国的にもめずらしい取り組みで、現在進行中の大きなプロジェクトということであった。

大阪のアーチ式水門についてご紹介いただいた。90度倒れて浸水を防ぐ水門で、構造の機械的な説明を詳しくお話しいただいた。大阪では大きな船が頻繁に出入りするためコストを削減するよう工夫された構造である。日本に3台しかないこの方式の水門は全て大阪府にある。排水機場の一例も写真を交えてその巨大さや構造をご紹介いただいた。

高潮水門を用いた治水策事例をご紹介いただいた。大阪はもともと湾や河内湖を埋めているために地盤が低く、排水しにくいため、河川を作る事業が重要とのこと(北部・南部地下河川)。また、高度成長期の地下水くみ上げによる地盤沈下のため満潮時水位よりも地盤が低いといった、災害対策の必要な地形となっている。

高潮対策:防潮水門方式で止める(都市部の防潮堤は低く抑えたい)。本流が流れなくなるので、その分は排水機場で淀川に流す。そのためには非常に大きなポンプが必要(1秒で25mプールを貯めるほどの性能を要する)。

津波対策:もともと防潮堤で守るという考え方をしてきた。震災を機に想定以上の津波への対策を議論してきている。防潮水門を活用できないのかという意見もあるが、津波のエネルギを抑えられるものではないため、水門が故障する可能性がある。しかし今は水門を「閉めて防ぐ」ことになっている。これは人命を優先してのことである。まずは人命優先の対策とし、水門のどこが故障するのか見極め、そこを補強する、という方針で様々な検討を行っている。大阪府河川構造物等審議会「津波対策検討部会」において3年前から継続審議中。3大水門の耐力検討の事例をご紹介いただいた(外力計算、評価基準などを検討。どの外力評価式を使うのか、環境設定についてフローを作成。選定した解析モデルで津波外力をケーススタディ。アーチ型のため形状モデルを3次元骨組みモデルにする工夫など)。これらの分析により、どこがもたないかはわかってきており、どう補強していくかを検討しているところである。

ソフト面の防災推進の事例として、津波・高潮ステーション(阿波座)での取り組みをご紹介いただいた。海抜0地帯のジオラマ、過去の災害資料、ダイナキューブなどの展示がある。ダイナキューブの映像を鑑賞させていただいた。

最後に、学生に向けたメッセージをいただいた。

仕事は大勢の人に影響を与える。自ら発信していく立場になる。発信することへの根拠、裏付けが重要。特に機械工学では設計、商品開発において工学的な根拠、裏付けが大変重要。そのもとになるのはいま大学で学び始めた機械工学の知識。それをこれからどれだけ身につけられるかが大事。自由になる時間は大学のときにはあるので、有意義に使ってほしい。大学の教員は各専門分野において先駆的立場にある。その大学教員に身近に接することができる恵まれた環境にあるので、環境を活用してよく勉強していただきたい。 (M50 林)



機械クラブ国際活動奨励賞受賞者の成果発表

平成26年度受賞者(所属学年は受賞当時)
“16th International Conference of Experimental Mechanics (ICEM16), 2014年7月7-11日 University of Cambridge, UK”
   稲川  毅 (大学院工学研究科博士課程前期課程2年)

“9th International Symposium on Ultrasonic Doppler Methods for Fluids Mechanics and Fluid Engineering, 2014年8月27-29日 Strasbourg, France”
   村松  瑛 (大学院工学研究科博士課程前期課程1年)

“2nd International Symposium on Multiscale Multiphase Process Engineering, 2014年9月24-27日 Hamburg, Germany”
   佐々木 翔平 (大学院工学研究科博士課程後期課程1年)

“ANS 2014 Winter Meeting and Nuclear Technology Expo., 2014年11月9-13日 Anaheim, USA”
   野末 貴大 (大学院工学研究科博士課程前期課程1年)

“APCOM & ISCM 2013: 5th Asia Pacific Congress on Computational Mechanics & 4th International Symposium on Computational Mechanics, 2013年12月11-14日 Singapore”
   奥田 龍弥 (大学院工学研究科博士課程前期課程2年)

“TMS 2015 144th Annual Meeting & Exhibition, 2015年3月15-19日 Florida, USA”
   川  智明 (大学院工学研究科博士課程前期課程2年)

「先輩は語る講演会」とともに機械クラブ国際活動奨励賞およびプレミアムプログラム報告会が併催された。 受賞者6名のうち、佐々木 君、村松 君、野末 君から、国際活動の体験談や、後輩学生に向けたメッセージが語られた。 他の受賞者は都合がつかず現地には来られなかったが、資料を準備してもらい、白瀬教授から代理でお話しいただいた。 よく勉強すること、英語を身に着ける努力をすることの重要性を痛感した、というメッセージは、これから学び始める初年次生には重要である。 TOEIC IPやKTCのTOEIC受験料補助など英語学習を啓発する環境もあるので、頑張っていただきたい。 入学して間もない1年生にとっては将来の卒研、就職などのイメージが持ちにくいところと思うが、 西田氏に見せていただいた十数年後の像、先輩学生が語る数年後の未来に、何かしら目標が見いだせたのではないだろうか。 (M50 林)



(写真左から:村松君、佐々木君、野末君)