令和4年度機械クラブ「若手研究者は今」
講演会(報告)
 開催年月日 : 令和4年12月3日(土) 15:30-16:30
 開催場所    : 工学部本館5W-301

 石田 駿一 助教を講師に迎えて、恒例の「若手研究者は今」講演会が開催されました.今年度は対面およびZoomでの配信によるハイブリッドにて開催しました.

                 
◆講演:生命現象の理解に向けた生体内流れの数値計算
    (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 石田 駿一 助教)
講演内容
 はじめに,ご略歴をお話いただき,その中で,生体流れの数値計算,カプセルや液滴の数値計算,GPU大規模計算などの研究に従事されてきたことのご紹介があった.
 次に,本日のご講演のテーマである体の中の流れについて,ご説明いただいた.体の中の流れには,血液(循環器系),空気(呼吸器系),食物(消化器系), 細胞(細胞質)があり,いずれにおいても生体内の流れを実験的に観察するのは困難である.そのため,数値計算を用いて,体の中の流れを再現して, 生命現象や病気を理解することの重要性をご説明いただいた.この分野では,動脈瘤のシミュレーションは世界的にも盛んにおこなわれており, 臨床レベルでの応用が進んでいる一方で,それ以外の流れについては,モデル化が難しくなかなか研究が進んでいないとのことだった.
 続いて,これまで取り組んできた研究事例をご紹介いただいた.まず,脳室内の流れの数値計算についてご紹介いただいた.脳室内は脳髄液で満たされており, それは500mL/Dayで産生される.繊毛機能不全は水頭症発症と関連しているというのは知られているが,そのメカニズムは分かっていなかった. そこで,脳室内流れの計算力学モデルを構築し,繊毛運動が作り出す流れの役割を明らかにした.計算手法として,格子ボルツマン法,適合サブドメイン法, 完全GPUによる実装にてシミュレーションを行い,正常モデルと繊毛機能不全モデルでは,側脳室の流れに違いがあることがわかったことが示された. 次に,胃内流動の数値計算についてご紹介いただいた.胃内では,胃液の分泌,胃壁の収縮運動(蠕動運動),内容物の貯留,撹拌,排出が行われており, 胃の疾患として,機能性ディスペプシア(炎症などはないものの胃の調子が悪い)が報告されており,力学的に機能性ディスペプシアを解明するために,力学モデルを構築した. 計算モデルには,蠕動運動と幽門の開閉を設定し,胃の内容物の粘度を変えたときの排出速度の変化をシミュレーションすることで,内容物の排出の度合いの違いを評価できることが示された. 最後に,嚥下流動の数値計算についてご紹介いただいた.嚥下とは,食物を口腔から食道へ転送する動作であり,多くの器官が複雑に連動している運動である. また,加齢や神経疾患,手術などの要因で正常な嚥下動作が難しい状態が生じ,誤嚥性肺炎で亡くなる方も多い.そこで数値計算を用いて, 正常な嚥下がどのようにして達成されるかについて検討した結果が報告された.
 医学系の研究者との異分野連携による研究を活発に進められており,臨床レベルでの応用を目指して研究を進められており,今後の研究に大いに期待できる内容であった.
(文責:M56西田)