令和5年度機械クラブ「若手研究者は今」
講演会(報告)
 開催年月日 : 令和5年12月2日(土) 14:30-15:30
 開催場所    : 工学部本館5W-301

 上杉 晃生 助教を講師に迎えて、恒例の「若手研究者は今」講演会が開催されました. 今年度は対面およびZoomでの配信によるハイブリッドにて開催しました.

                 
◆講演:シリコン半導体ナノ構造の形成と物性評価の研究について
    (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 上杉 晃生 助教)
講演内容
 はじめに,これまでの経歴をご紹介いただいた.微細構造の機械特性材料試験,強度信頼性, 破面分析に関する研究を主に行い,神戸大学着任後は,ナノ構造の物性解明,ナノ細線生成に関する研究を 進められているとのことである.
 次に,現在所属されているナノ機械システム工学研究分野について,ご紹介された. 研究室が保有しているクリーンルームや成膜装置,分析機器などのご紹介があった. 研究室で取り組まれている研究の中でも「ナノテク&サイエンス基盤技術領域」に関して詳しくご説明された. MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemの略で,日本語にするとすれば微小電気機械システムとなる. 機械構造と電気回路からなる素子であり,測定・検知したい物理量を計測しやすい電気信号にかえる変換器である. 微細構造の機械的な変形を利用しているとのご説明があった.MEMSセンサは車載センサやスマートフォンなどの 我々の身の回りの製品に多く用いられている. これまでのMEMSセンサは単機能のものが中心であったが,最近では,より高機能なセンサ,高付加価値のセンサが 求められているとのことだった.
 次に,半導体材料のナノスケール化で見られる特有の物性の変化が現れる現象について, 近年報告されている応用研究例とともに説明された.ケミカルセンサやバイオセルなど, シリコンナノワイヤや半導体ナノワイヤを用いた数多くの応用研究があることが紹介された. シリコンナノワイヤの生成方法にはボトムアップ法,トップダウン法があるが,ボトムアップ法について 研究をされている. ボトムアップ法は貴金属を触媒として成長させる方法であり,広い面積でのナノワイヤ成長が可能であることや, 良好な内部結晶構造が可能であることが利点である.ナノワイヤ成長過程は,触媒となる金ナノ粒子を500度程度で 加熱して,その後シリコン原子を含むガスを導入することで,ナノワイヤの成長が進む. しかし,ナノスケールでのワイヤの成長では成長方向の制御が難しく,基板に対して垂直に成長させる方法に 関する研究成果を説明された. この方法では,まず,MACE (Metal-assisted chemical etching) 法によって,触媒ナノ粒子と同程度の直径の ナノホールを形成し,その後,ボトムアップ法でナノワイヤを成長させるとのことである. 提案された方法によって,80%のナノワイヤが基板に対して垂直に成長することが実験で示されたことが報告された. 適切な深さのナノホールが重要であるとのことである. この方法を適用し,特定の領域間でシリコンナノワイヤを橋掛け状に成長させて集積する方法に取り組んでおられ, 領域間をつなぐ直線状のナノワイヤの形成に成功されている.最後にSiC(シリコンカーバイド)ナノワイヤに関する 研究の取り組みについてご紹介された. SiCは化学的不活性により過酷環境下のMEMSセンサ材料として注目されており,研究を進めているとのことだった.
 半導体微細加工,ナノテクノロジーの重要性は今後も高まるものと予想され,社会を支える技術であり, 今後の研究にも大いに期待できる内容であった.
(文責:M56西田)