第5回「機械技術者生活を語る座談会」(報告)

座談会部会長:山岡高士
実行委員長:玉屋 登
 昨年に続き、第5回「機械技術者生活を語る座談会」を2019年10月5日(土)、神戸大学工学部5W棟(5W-301)で開催した。
 出席者は、下表のとおり44名でした。
出席者人数備考
話題提供者2名M㉑中野直和様/ M㉔田中守様
学生26名M1:16/B4;4/レスキューロボットチーム;2
フォーミュラーチーム;2
特別会員1名神大名誉教授;進藤明夫様
役員2名平田会長、谷総務部会長
座談会部会員(委員)13名山岡座談会部会長他
    (添付の参加者名簿および集合写真をご参照ください)。
 
 【発表状況】
下記のテーマ(1)、(2)について話題発表をいただきました。
(1)「企業における研究開発の実際―大学の研究と何が違う―」M㉔田中守様:
 略歴;1978年3月神戸大学大学院工学研究科機械工学専攻修了、三菱重工業鞄社(高砂研究所振動研究室)/2000年同社高砂研究所振動・騒音研究室室長/2003年高砂研究所構造研究室室長/2006年先進技術研究センター研究センター長/2008年技術本部技師長/2018年〜現在総合研究所顧問
 
 発表概要;
  1. 卒業後一貫して企業の研究部門に勤務し、前半の20年は振動分野の研究、後半の20年は研究管理に従事した状況について紹介があった。
  2. 卒業論文、修士論文の概要を紹介し、卒業後の企業での研究活動にどのように役立ったかの紹介があった。
  3. 企業での主な研究分野であった@流体関連振動、A耐震、B異常診断について各分野での研究事例を紹介し、企業の研究者の立場から見た、大学の研究と企業の研究の違いや、大学/大学生に望むことについて紹介があった。

(2)「地上戦と空中戦 −製鉄所での厚鋼板生産と本社での地球環境問題対応の経験−」
M㉑中野直和様 :
 略歴;1974年神戸大学工学研究科博士課程前期課程修了、住友金属工業(株)入社/1996年鹿島製鉄所熱間圧延部長/2000年厚板生産技術部長/2003年東京本社技術総括部長/2010年気候変動担当部長/2012年新日鐵住金(株)本社/2013年日鉄住金テクノロジー(株)本社/2015年安全防災推進専門部長/2018年退職/2015年〜現在関西大学システム理工学部非常勤講師(安全工学)
 
 
 発表概要;
  1. 製鉄所での生産計画・管理と材料設計・管理 【地上戦】
    ちょうど大径管工場が稼働した時期に入社したことから、大径管(直径700mm、長さ12,000mm原油輸送用、等)用の厚板の一貫管理を担当し、その後も同様の材料の製品開発・材料設計・製造管理が主担当となった。まさに制御圧延・制御冷却が生まれ、ほとんどの大径管用材料が制御冷却で製造されるようになった歴史について紹介があった。
  2. 本社での地球環境問題対外窓口       【空中戦】
    技術総括部に転籍し、それまでと全く違う業務を担当した。特に、地球環境問題は、鉄鋼業にとっては重要であったが、製鉄所時代にはほとんど関与することは無かったが、社の事務局として担当することになった。社内よりもほとんどが鉄鋼連盟という業界団体として活動した。COPへの参加、日本発のISO標準化等、あまり知られていない側面について紹介された。
  3. 関係会社出向し安全課題対応
    試験・分析を担当する関係会社に出向し、安全管理を支援した。労働災害というものをじっくり考えることができ、大学でも講義を続けている。時間が許す範囲で製造業に取っての安全について紹介された。

 【懇談会の状況】
 話題発表の後、26名の出席学生を2名の話題提供者個々を囲んで13名ずつの2班に分かれ、座談会部会からコーディネータ・記録担当各1名が加わり、懇談を行いました。懇談の概要は次のとおりでした。
(1)M㉔田中守様を囲んだ懇談結果(概要)
 Q;研究成果は、試験の解答のような正解が得られない。社会に出てもそのようなものなのか。学業におけるモチベーションをどのように保つべきか悩みがある。
 A;明確な正解がないことがある。社会では、研究成果を製品に反映できることとお客様のニーズが最終判断になると考える。いずれにしても基礎学力が必須であり、長年にわたった努力が成果を実現できることもあり、この応用が社会で求められる。
 Q;会社生活でやりがいはあったか?
 A;異常診断での研究成果により、トラブルの予兆を見つけることができ、やりがいを感じたことがあった。
(2)M㉑中野直和様を囲んだ懇談結果(概要)
 Q;鉄鋼業界は既に出来上がっていると思うが,これからどう発展していくのか。
 A;製造プロセスなどのベースは変わっていないが、時代のニーズが変わってきており、板がグチャッとつぶれた方が車に良いなど、.細かい技術開発は進んでいく。複合材に行くかもしれないが素材業は変わらない.今後、収益性が厳しい面も出てきている。
 Q;企業に入って勉強をしたのか?
 A;社会に出て、追加の勉強は常に必要である。大学で学ぶ分野の技術はどんどん新しくなる。学び続けることが大事である。英語は必要である.NHK BS放送のABCニュース英語はリスニング勉強に役立つ
 Q;他に伸びる業種はどんなものと思うか?
 A;いまやコンピュータの無い企業体は考えられない.IT(情報技術)をどう利用するか,どうか関わっていくかに関心を持って会社を選ぶべきと思う。
 
【親睦会の状況】
  懇談会終了後、親睦会を工学部学生ホール(AMEC3)で催しました。
 一部では、懇談時間が不足で、聞きたらない質問も出て、親睦が図られました。
【アンケートの状況】
学生からの「アンケート結果」は下表のとおりでした。
(Aグループは回収中のため、Bグループ13名を対象としました。)
質問回答
1興味深かった点はあったか?あり;85%なし;15%
2今後の学生生活にとって参考になったか?あり;77%なし;23%
3将来を考える上で、参考になったか?あり;62%なし;38%
4本座談会の継続に賛成するか?賛成;73%なし;23%
5本座談会に参加して良かったか?良い;62%普通;38%
主な自由意見は次のとおりです。
  1. アメリカと日本との大学と企業とのかかわり方の違いを聞けた。
  2. トライ&エラーの実例を聞けた。
  3. 技術を伝承することの重要性、技術引継の重要性が理解できた。
  4. 広い分野の知識を身につけることの重要性が認識できた。
  5. 企業で実際に取り組まれていた研究内容を説明していただき、興味深かった。
  6. 鉄鋼業界で働いてきた感想や業界全体の動向を聞くことができ、とても興味深かった。
  7. 学生時代の研究と同じ/異なる研究であったという点で異なる視点の話を聞くことができ、面白かった。
  8. 原因解明のみにとどまらず製品に応用させるところまでしなければならないところが大学と企業の違い、というお話が理解できた。
  9. 解析をするにしても(自分で計算をしないにしても)基礎知識などを知らないと結果の妥当性や条件の設定に困ると思うので、その際に今学んでいることなどが役に立つと思いました。
  10. 幅広く知識を修得することの必要性が理解できた。
  11. 一定の分野に集中することなく勉強しようと感じた。
  12. 現状、教授に言われた事をやっているだけなので今後自発的に取組んでいこうと感じた。
  13. IT等の話題について触れつつ、鉄鋼会社また日本企業の未来について話していただいた点が参考になった。
  14. 大学での研究と企業での研究の違いについて説明していただき、とても参考になった。また工学部として社会での実用化を視野に入れて研究を進めるべきだというお話が印象に残り、自分の研究内容を改めて考え直すきっかけになった。
  15. 大学で勉強しておくべきこと、身につけておくべき技術や知識の話をしていただき、残りの大学生活を身を引き締めて有意義に使おうと思った。
  16. 今後の研究に対する取り組み方や勉強の仕方、就職への考え方など、先輩方の経験をここまで深く聞くことができる機会が貴重であり参考になる点が多かった。
  17. 幅広い業務を経験された話が聞けて、「大学生活では工学に限らず多くのことを勉強するべき」という話が勉強になった。
  18. 現場の人と直に話し合うことが大切だと思いました。
  19. どこの会社に就職しようか迷っている学生に向けてすぐ参考になる良い機会だと感じました。
  20. ご出席されるOBの方の年齢層がもう少し広ければ良かったと思います。

 最後になりましたが、ご多忙中にもかかわらず、本座談会への話題発表を快くお引き受け下さいましたM㉔田中守様、M㉑中野直和様、ご協力頂きました浅野先生、ご出席頂きました学生の皆様、機械クラブ会員の皆様、機械クラブ役員の皆様、そして各種役割・作業を分担頂いた座談会部会の皆様、親睦会でお世話になったKTC事務局の皆様に、心からお礼申し上げます。
 ありがとうございました。(終)