六甲祭協賛機械工学科主催 KTC機械クラブ協賛講演会概要

ものづくり機械の進化―知的生産システムの動向―

 

         工学部長
                                                  機械工学科教授 森脇俊道

 

 ヒトが他の動物と最も異なる点の一つは、道具や機械を作ったり操って、自然界に無い人工物を作りだしてそれを利用することであると言えます。ものを作る道具や機械は人の歴史と共に進化してきており、その進化の過程は機械工学の歴史の重要な一面であると考えられます。ここでは、ものづくり機械の代表である工作機械(主として切削加工を行なう工作機械)を取り上げ、その歴史的な変遷(進化の過程)について、自分の考えを交えて紹介し、将来への展望を試みてみました。お話の概要は以下の通りです。

工作機械のルーツは、古代のエジプトの壁画にもあるように、人が手を使って工作物や工具を動かして何らかの加工を行なう、手作業の機械あるいは人力機械ともいえるものにあると言えます。人力で加工を行なう時代では、加工に必要な動力の関係から、工作物は主として木や軟質金属であり、工具である鋼の加工法は、主として鍛造や塑性加工、研磨加工でした。中世に見られる各種文献からは、工作機械はより精度の高い加工、複雑な形状の加工を目指して、様々の工夫が凝らされていることが伺えます。

その後工作機械は、人力から水車や風車などの自然エネルギーを利用するようになり、更に動力機械に変身したのは、18世紀後半の産業革命のときでした。ちなみに産業革命を引き起こしたワットの蒸気機関が日の目を見ることが出来たのは、ウィルキンソンが発明し、当時としては画期的な精度を実現した中ぐり盤(シリンダーの加工用)があったからでした。この中ぐり盤の模型は今でもロンドンの大英博物館に展示されています。その後、人工的な動力を得た工作機械は、鋼などそれまで切削することがほとんど不可能であった各種金属を能率よく加工する機械として大いに発展し、産業革命の原動力ともなりました。

こうした動力工作機械は、主としてメカニズムによる制御、高精度の機械要素のおかげで著しく進化し、第2次大戦後の産業復興までの生産基盤の主役を果たしたことは良く知られているとおりです。ところで、産業革命の発祥地であったイギリスでは、旋盤やボール盤など、主としてバイトやドリルを用いた工作機械が作られ、イギリスの産業を支えました。他方アメリカでは、広大な大陸へ進出するために高性能の武器を多量に生産する必要から、生産性の高いフライス盤(多刃工具を使用)が発明され、ものづくりに互換性の概念が導入されました。この考えは、やがて有名なフォードの大量生産へとつながっていきます。

動力機械に対して革命とも言える変革が起きたのは、1952年にアメリカのパーソンズがMIT(マサチューセッツ工科大学)と協力して開発したNC(数値制御)工作機械の出現です。NCは加工するために必要な制御情報を数値情報で与えることに最大の特徴があります。数値制御とサーボ機構の組み合わせで、これまでのアナログによる機械式制御からは考えられない変革がもたらされました。特に時を同じくして進歩したコンピュータ技術の恩恵を受けて、工作機械は大きく進歩しました。具体的な技術進歩の例としては、同時多軸制御により、それまで不可能であった複雑形状の加工が可能となり、また機能の統合(例えば、マシニングセンターなどの複合加工機の出現)、システム化に代表されるようにコンピュータによる多数の工作機械の制御などです。

現在のNC工作機械は、CNC(コンピュータNC)工作機械と言われ、制御部はディジタル・コンピュータ、実際の駆動部はサーボとアクチュエータからなっており、それぞれ独立に著しい進歩を遂げてきました。一番の特徴は、ソフト的に見ればCAD/CAMや、技術データベースとの統合により、これまで現場の技術者や技能者が処理していた内容をコンピュータにより処理することが可能となったことでしょう。ハードウェアの進歩もすばらしく、最近では1ナノメートルの運動分解能を有し、極めて運動精度の高い、いわゆる超精密工作機械も出現しています。

NC工作機械の次の進歩は、適応制御であると言えます。従来のCNC工作機械は、例えばマシニングセンターを例に取ると、あくまでも工具を取りつけた主軸と工作物を積載したテーブルの間の相対的な運動制御を行なうに過ぎず、工具と工作物の間で生じる加工プロセスについては、正常に加工が行なわれると言う前提に立っています。そこで例えば、切削力や工作物の寸法などをプロセスの情報として制御装置にフィードバックし、最適な加工状態を実現するために工具の位置や切削条件のインプロセス制御が試みられるように。なりました。これをこの分野では適応制御と呼んでいます。技能者が加工中の音を聞き、振動を体で感じ、切りくずの出方を確認しながら機械を操作していることに相当すると考えられます。

以上が、現在の工作機械の最新技術です。次世代の工作機械はどうなるでしょうか?私は知能化された工作機械が実現すると信じ、研究室ではそのための基礎的な研究を行なっています。知能化(インテリジェント)工作機械がどんな機械になるか、まだわかりません。ご参考までに、以上のべた工作機械の歴史的な進歩の過程を図に示しておきます。

                                        

H141110日開催、参加者(敬称等略):(旧教官:進藤先生)(EB:渡辺、M13:平井、M14:薦田、P1:足立、P5:島、M@:藤尾、山村、MA:杉浦、宇野、MD:上原、岡澤、谷口、山登、ME:常慶、MG:宗村、井上、MK:澤田、野村、森岡、MO:冨田、MP:三好、M(38):安達、PP:樋野、AI:笹原、一般:宇都宮)(院生、学生8名)