<<六甲祭協賛講演会概要報告>>
トライボロジー   −宇宙から原子・分子まで−
 開催年月日 : 平成17年11月12日(土) 
 講師 : 機械工学科 大前 伸夫 教授 

講演要旨=『トライボロジーとは潤滑,摩擦,摩耗などを含めた「相対 運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間に生じる現象に関する科学と技術」で,ギリシャ語で“摩擦する・摩耗させる”の意味のtribosを 語源としている。この意味からトライボロジーは理化学的な基礎研究から産業面での応用研究まで,非常に幅の広い学問となっている。私共 も表題にあるように宇宙から原子・分子までのトライボロジー研究を行っている。
宇宙では多くの場合,一度軌道上に上げてしまうとメンテナンスが困難なので,可動部分は耐用年数まで必ず正確に動かなければならない。それゆ え摩耗量などの見積りは重要である。宇宙は真空以外に紫外線,放射線,イオン,残留大気など地上とは全く異なる環境にあるので,その環境を シミュレートし,摩擦実験を行わなければならない。私共の研究室では低地球軌道宇宙空間での酸素原子環境をシミュレートする装置を開発し,多 くの知見を得て日本の宇宙ミッションに貢献している。
ナノテクノロジーの発展に伴い,フラーレンやカーボンナノチューブなど新しい材料が次々と発見されている。これら新しい炭素の同位体はグ ラファイトやダイヤモンドの性質を継承しつつ,構造が球やチューブ状の三次元構造をとっていることで,今までの材料になかった特異な性質を有 している。例えばカーボンナノチューブは鋼鉄の数十倍の強さ,高い柔軟性,耐腐食性や耐熱性に優れる夢のような材料である。
私共はカーボンナノチューブを大量に合成して,そのトライボロジー特性を研究している。特に,マイクロマシン材料への応用を想定 して行った,荷重がマイクロニュートンレベルの結果は,トライボロジーの常識を打ち破る非常に特異なものであった。それは摩擦力と荷重の線形性や,摩擦力は接触面積と摩擦 速度に依存しないなど,従来の摩擦現象と変わらない特徴が見られる反面,摩擦係数が1を超えるという超高摩擦を示したことであった。 オニオンライクカーボン
この超高摩 擦のメカニズムは今までのトライボロジー理論での凝着や掘起こしでは説明できないものである。私共は,この超高摩擦が変形に対するカーボンナノ チューブの高い曲げ剛性の抗力によって生み出されると考えている。
他にも工具/被削材界面の原子レベルでの解析や,オニオンライクカーボン(上図)の創成などを行っている。私共の研究に興味を持って頂く企業や, ご紹介したトライボロジーやナノサイエンスの研究手法を役立てて頂く企業も多くなってきている』

最後に、“I love Kobe Univ.”というスライドを示され,「自然体で、自由な研究ができることを感謝している」と述べられて,講演を締めくくられた。