平成20年度機械クラブ総会講演会(概要)
 
日 時:平成21年3月25日(水)17:20〜18:20
場 所:兵庫県私学会館
講 師:住友金属工業株式会社 三澤 泰久 氏(M(33)回)
演 題:「鉄道車両を支えているものは?−縁の下の部品達のお話−」
出席者:約90名

講演概要
 はじめまして、M33でM2講座出身の三澤です、 住友金属で鉄道車両品の事業に携わっています。
 本日は最もエコな公共交通機関であり、今巷でなぜか鉄ちゃん人気が高まっている鉄道について、その人気車両ではなく、車両を支えてい る縁の下の部品たちについて紹介させて頂きます。 皆さんがより鉄道を身近に感じていただければと思います。
 鉄道を支えているのは、鉄道会社をはじめとしてこれに携わる“人”ですが、車両を支えているのは“台車”と呼ばれる“走り装置”と言え ます。 阪急六甲で反対側のホームに停まった車両の下にある車輪が2枚見える部分です。 新幹線の300Km/H高速走行も路面電車が一 般道路と同じカーブを安全に曲がれるのも、台車の性能によるところが大きいのです。 台車には、直線・曲線の安定走行と、良好な乗心地 を満足するといった役割があり、レール上を転がる輪軸、輪軸を支持するサスペンション、駆動力を伝えるモータおよび歯車装置、停止す るためのブレーキ装置等を台車枠というフレームに組み込んだ構成となっています。
 鉄道工学を学ばれた方はご存知と思いますが、舵のない鉄道車両にとって、直線安定性と曲線通過の両立は大きな課題であり、走行路線・ 速度などの条件に合わせて車輪の踏面形状やサスペンションの剛性の最適化を図っています。
 踏面というのは、車輪のレールの上に乗る部分のことで、ここが単純円筒ではなく円錐状になっています。 カーブでは遠心力で車両が 外側にずれるため、車輪もレールとの接触位置がずれ、外側の車輪は径大に、内側の車輪は径小となって内・外輪差がつくことによって スムーズに曲線通過するようになっている訳です。 ご存知でしたか?
 また、あまり知られていませんが、日本では輪軸の設計・製造は当社のみが行っており、これに台車を加えて走り装置として、材料から設 計・製造・アフターサービスまで一社で担当できるのも当社のみです。 さらには、世界的にみても非常に稀有な存在であり、鉄道車両の走 り装置を総合的に設計・製造できる世界唯一のメーカということができます。
 そういった技術力・総合力により、新幹線の台車開発にも当社は大きな役割を果たしてきました。 完全引退した初代新幹線0系の台車開発 から当社技術がふんだんに盛込まれています。 0系新幹線の試作台車は当社製であり、現在は私が勤務している当社製鋼所(大阪市此花区 )にて展示しています。
 なぜ当社が、鉄鋼メーカでありながら日本の鉄道台車分野でトップランナーとして活躍できるのかについてですが、鉄道の安全走行を支え る走り装置についての、鉄鋼メーカの材料力および長年の開発で培った設計力に加え、専門メーカであればこそ可能となる性能評価のため の専用独自試験機を駆使し、徹底的に実証・確認を行うことができる、また実際にそうしてきたからだと考えています。
そういった中での、当社の特徴的技術開発について例をご紹介します。
 先ずは、車輪の高精度生産についてです。 当社は、車輪の円板部分を円周方向に波打たせ、剛性を確保しつつ板厚を低減・軽量化できる 波打車輪を開発・製造して来ました。 広くJRさんや私鉄さんにご使用頂いています。 この波打ち部分は熱間で成形していますが、この部分の 円周方向の板厚ばらつきは車輪のアンバランスとなるため、これを抑制する必要があります。 この課題に対して、プレス能力・精度向上が 一つの対策
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新幹線ボルスタレス台車


住友の鉄道車両品


波 打 車 輪

ですが、スペースなどの制約があり、より簡単に効率よくこれを達成するために、我々は全く新しいプレス設備の開発を行いました。  小さなプレス荷重でも負荷面積を小さくすることで面圧が大きくなり、大きな成形能力を得ることができます。 これを指針として、 それまで大型設備としては世界でも例のなかった回転鍛造を取り入れることを決意し、小型試験から大型製造設備の開発・製造技術開発を 行い、従来に比べて車輪のアンバランス半減といった大きな改善を可能としました。 世界に車輪メーカは数社ありますが、機械加工なしで こういった高精度車輪を製造できるのは当社だけです。
 また、最新型新幹線N700系の登場で廃車が始まった初代のぞみ:300系新幹線については、0系新幹線の開発にも匹敵する高速軽量車 両開発プロジェクトでしたが、車軸疲労試験機、ブレーキ試験機、歯車装置低温試験機等の独自試験機を駆使し、アルミ部品の開発などで 東海道新幹線の270km/h化に向けた軽量化と高速化を達成しました。 現在は、高速化に際しても快適性の向上が求められており、 これに対しては、鉄鋼メーカならではの薄板などの製造技術で培った制御技術を応用したアクティブサスペンションでの乗心地改善(東北 新幹線はやてに採用)や世界唯一の鉄道用歯車装置騒音評価設備(無響音室)を利用した歯車装置の低騒音化(東海道・山陽新幹線N700 系に採用)でユーザの要請に応えています。
 私は、いわゆる鉄道ファンではありませんが、鉄鋼メーカには珍しく、最終製品を送り出している製造所に憧れて入社し、以降鉄道車両製 品の製造にかかわってきました。 ここに紹介した300系新幹線向け輪軸の開発に携わった経験が大きな自信につながっています。 当時入 社2年目という経験の浅い設計者に対して、世界に誇る“新幹線”の新型車開発を思う存分やらせてもらったことによって、大変貴重な経 験ができました。
 ご紹介のとおりハイテク計算を駆使しての机上検討・計算のみを行ってきた訳ではなく、徹底的に実際のモノを試験する・調べる過程の 重要性およびモノ造りの難しさを噛み締めつつ、世界一レベルの仕事ができる誇りを感じています。

無響音室負荷回転試験機
 モノ造りにおいては、単独分野の技術・メンバだけではすぐに限界が来てしまいますので、他分野との境界をいかにスムーズにまとめるか が、大きなポイントと考えます。
 自分がNO.1といえる分野をつくるのは必要なことですが、そのためにも、自分の守備範囲を小さく限定せず、そのときの課題(プロ ジェクト)に何が必要かをしっかり理解し、積極的に周辺分野へ踏み出して行っていただきたいと思います。
 皆さんのこれからの研究やお仕事に少しでも参考になれば幸甚です。
 ご清聴ありがとうございました。                                   =以 上=