<平成21年度機械クラブ>
「若手研究者はいま」講演会(報告)
 開催年月日 : 平成21年12月5日(土) 15:00-16:30 
 開 催 場 所  : 工学部5W-301講義室 

 川南 剛 准教授と新田紀子 助教を講師に迎えて,恒例の「若手研究者はいま」講演会が開催されました。参加者は機械 クラブ会員と教職員の約40名でした。
 また,講演会終了後は講師のお二人も参加され,AMECで和やかな雰囲気のもとで懇親会が開催されました。

◆講演T:環境負荷低減のための冷熱エ ネルギーの変換・利用技術
            (講師:神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 川南 剛 准教授) )
講演要旨
 「ああその蒼空(そうくう)/梢(こずえ)聯(つら)ねて/樹氷咲く/壮麗の地をここに見よ」−日本三大寮歌の一つ,北海道 帝国大学予科寮歌(恵迪寮歌)『都ぞ弥生』の一節である。本州で樹氷といえば,蔵王のような山地における樹氷を頭に描くのが普通で あるが,『都ぞ弥生』が歌われた北海道などの寒冷地では,平地においても樹氷の花咲く様子を見ることも珍しくなく,美しく幻想的な 光景を生み出している。一方同じ着氷・凍結現象でも,構造物や船舶などに着氷が起こる場合には,たちまち人命に関わる重大な事故お よび障害を発生させる要因ともなる。また,近年の環境意識の高まりから,自然冷熱や凍結現象を積極的に利用する技術,および環境負 荷の小さな冷熱生成技術に関する研究も非常に活発に行われており,その研究対象も時代と共に大きく変化してきている。
 一般的に,液体をその凝固点温度以下に静かに冷却する場合,液体はその凝固点温度では凍結せずに液の状態を維持する。この現象は 「過冷却」と呼ばれる。過冷却状態の水滴は,氷核の発生物質や何らかの冷えた物体に接触すると瞬時に過冷却が解除され,物体上に多 量の着氷を生じさせる。そのため,重大な航空機事故および海難事故を引き起こす要因ともなり,従来構造物へ
 

質問に答える川南准教授
の着氷雪機構の解明および 防氷・除氷技術に関する研究が盛んに行われてきた。
 一方,最近では雪氷が持つ低温エネルギーとしての価値が見直され,雪氷冷熱は再生 可能エネルギーとして注目が集まっている。雪氷冷熱を利用した施設は,北海道および日本海側の降雪地域を中心にすでに100を越えてお り,ビルの空調利用,農作物の冷温貯蔵などに利用されている。また,2008年7月に開催された洞爺湖サミットでは,メディアセンターの 空調に7000トンの雪室を利用した雪冷房システムを導入し,フロンガスを用いない低環境負荷の技術として海外に大きなインパクトを与え た。
 また,同様にフロンを使用しない新たな冷凍技術として,我々のグループでは磁気冷凍システムを開発している。磁気冷凍法は外部磁場 操作によって生ずる磁性材料のエントロピー変化を利用するものであり,現在では日米欧の各研究グループの精力的な研究により,数百ワ ットクラスの実機の稼働というところまで開発が進んでいる。中でも,2006年に中部電力,東工大,九州大,および筆者らの共同研究グル ープで開発したシステムは,冷凍能力,成績係数とも世界最高の性能を示している。
 以上,「冷熱」という言葉をキーワードに,これらが引き起こす諸問題から利用・生成技術に至るまでを本講演でお話しさせていただい た。このような機会を与えてくださった,KTCM永島会長を始め本講演会 世話人の皆様,またKTCM会員の皆様に感謝の意を表する次第である。

フロンガス を使用しない次世代冷凍技術

◆講演U:イオン照射によるIII-V族化合物半導体の構造変化
            (講師:神戸大学大学院 工学専攻科 機械工学専攻 新田 紀子 助教)
講演要旨
 通常,化合物半導体にイオン照射を行うと表面にイオン飛程程度の損傷領域が形成され,照射量が多くなると非晶質化する。一方で, GaSb およびInSb(加えてGe)にイオン照射を行うと,表面にナノからサブミクロンオーダーの三次元構造が形成される。この現象について の最初の報告は1957 年のKleitman とYearian による。その後30 年以上の空白期間の後,多くの研究者らによって様々なイオン照射条件で 実験が行われ,構造の形成メカニズムについて議論がなされている。そして,これらの構造は照射誘起の点欠陥の集合によって形成される こと,また照射初期にボイドが形成され,それが成長することによってできることが明らかになっている。これまで,この現象については, バルクに対しての照射実験しか報告されていない。
 そこで我々は,照射初期の現象を解明するために,薄膜に点欠陥を多量に導入することができる重イオン(Snイオン)を照射し,ボイド 形成およびそのときの結晶構造変化について調べた。加えてGaSb とInSb における形成された構造の違いについて比較した。組織の観察に は透過型電子顕微鏡を用いた。
 

質問に答える 新田助教
GaSb とInSb 薄膜にSn イオンを室温で照射すると,どちらの試料にもボイドが観察された。 その大きさはGaSb で平均直径約15 nm,InSb で20 nm であった(照射量3×1017 ions/m2)。InSbの方がGaSbより大きなボイドが形成され ている。
これはInSbの方が,形成される点欠陥が多量であること,また原子の拡散が早いことによると考えられる。電子線回折像中には,GaSb ではデ バイシュラーリングが,InSb ではそれに加え化学的不規則化に起因して規則格子斑点が消失し,ストリークが観察された。高分解能像の フーリエ変換による詳細な解析により,そのストリークは,スポットの集合であることを明らかにした。これは長さの異なる逆位相領域が 形成されていることを示している。
 最後にKTCM永島会長を始めKTCM会員の皆様に感謝の意を表します。

イオン照射によるGaSbの構造変化