平成23年度機械クラブ総会講演会(概要)
 
日 時:平成24年3月23日(金)17:20〜18:20
場 所:兵庫県私学会館
講 師:住友ゴム工業株式会社 研究開発本部長兼材料開発本部長 中瀬古 広三郎 氏 (M(24)院)
演 題:「自動車用タイヤとその開発動向」
出席者:約70名

講演概要
  神戸は日本のゴム産業の発祥、育成の地でありタイヤを中心として1900年代初頭に工業化が進み 以降ゴム靴、工業用ベルトなど神戸を代表する一つの産業へと発展してきました。
  ゴム製品は我々の社会において車用のタイヤ、産業用品のみならず医療用や生活・レジャー用品 など広範囲な用途に使用され、それに伴い様々な技術的な要求性能が求められる製品であります。
  今回はゴム生産量の8割を占めるタイヤ技術に関連した講演を行いました。
  タイヤの基本性能は 内部に空気を充填した上で
 ・荷重を支える ・力を伝える(発進・停止) ・ショックを吸収する ・曲がる
でありこれらの性能を高次元に引き出して行く必要があります。
  また 近年では環境保護の観点から車の省燃費性能が重視され、寄与度の高いタイヤ自体の走行 回転におけるころがり抵抗を低減させると同時に、安全性の指標であるブレーキ停止性能を両立させる 高性能な低燃費タイヤへの要求が大きく高まってきています。
  タイヤはゴム素材のみならず構造的には繊維構造物、スチールワイヤでの接地面拘束強化など 要求される性能を満たすために複雑な構造設計がなされており、かつその物性は非線形な粘弾性 特性を持っているため 設計・解析技術には様々な手法が要求されることになります。
  今回はその中でも各種シミュレーション技術(FEM、材料分子動力学)をご紹介しました。
  従来のシミュレーションは主に構造物の破壊や応力予測をFEMで実施して、製品の試作数や 開発期間の削減を目的としてきていました。

講演資料の例 (画像をクリック⇒拡大表示)
 
  当社では単なる応力解析だけでなく実際にタイヤが走行している状況も含めた動的シミュレーション を開発し、ドライバーが感じる各種性能そのものを定量予測する手法を完成させ活用しています。
  具体例では、・高速走行での接地状態と力 ・接地面での排水 ・雪上や泥路面での走行力、更にはタイヤと路面の接地に よって発生する音とその伝播を予測して低騒音の優しいタイヤ開発へ結び付けています。
  最近では タイヤ本体のFEMシミュレーションだけでなく複雑なゴム素材の性能を制御し、新素材の開発に結び つけるべく、ナノレベルでのポリマー、補強充填材、結合材の化学的・物理的なシミュレーションを可能にして来ました。
  これらの材料ナノシミュレーションを駆使した構造解析には兵庫県に有ります放射光施設Spring-8や 高性能なスパコンが必要とされ、今後もより良い製品の開発のために様々な連携をとった上で 研究開発を進めて行きたいと考えております。