令和5年度 機械クラブ 六甲祭協賛講演会
 開催年月日 : 令和5年11月11日(土)11:00-12:00      
開催場所 : 工学部本館 5W-301およびZoomによるハイブリッド開催 

 恒例の機械工学先進研究講演会が開催されました.今年度は六甲祭の日程に合わせて講演会が開催されました. 今年度は,医学研究科医療創成工学主配置であり,機械工学専攻を兼務されている中楯 龍 准教授を講師に迎えてご講演いただきました.

                 

◆講演会…「機械工学先進研究」 (司会:浅野 等 教授)
○講演題目:手術支援ロボット・医工連携
○講  師: 中楯 龍 准教授
講演内容
 はじめに,中楯先生のご略歴についてのご紹介があった. また,今年度神戸大学に新たに設置された「医療創成工学専攻」についてのご紹介があった. さらに,2025年度4月に開設予定の新学部のご紹介があった. 医療創成工学専攻に今年度入学された学生は非常にモチベーションが高いことが紹介された.
 1つめの話題として,腹腔鏡手術および手術支援ロボットに関する話題提供があった. 手術支援ロボットは低侵襲,正確性,自動化を目指して世界中で研究開発されている. 低侵襲とは,健常組織の切開を減らすことである.腹腔鏡手術では,腹に小さな穴をあけて, そこから鉗子と内視鏡を挿入して施術を行う手術であることが説明された. 腹腔鏡手術を行う手術支援ロボットとして最も有名なダヴィンチの稼働台数は世界で7,000台程度である. 現在年間で150万件程度の手術がダヴィンチで行われている. ダヴィンチを開発したIntuitive Surgical社は医療機器ビジネスとして成功しているが, 手術支援ロボット分野ではこの1社だけが突出している状況であることが説明された. 次に,腹腔鏡手術の難しさについてご説明があった. 腹腔鏡手術では,カメラを通した視野で行うことと,体外で操作するハンドルと鉗子の動きのずれ, 鉗子の動きの柔軟性の低さが要因で手術が難しい. 例えば,糸を結ぶ動作の場合,人の手であれば5本の指で行うことができるが,鉗子で行う場合は, 2本の先端部で糸を結ぶ必要がある. 手術支援ロボットでは,鉗子の先端の柔軟性が高い設計になっていることや, 術視野を3次元化して,操作ハンドルとの連動性を向上することで直感的な操作を可能にしている. 次に,手術支援ロボットの要求仕様についてご説明された.主な点は,腹にあけた穴の位置は術中に動かすことができないため, その位置を必ず通るように鉗子を制御している.また,鉗子先端の手首の柔軟性を実現するための機構についてご説明された. これらの技術がダヴィンチの特許技術となっており,これまでの競争優位となっていた(現在,特許期限は切れている.). また,これらの技術以外にも使用者の操作性がよくなるように細かな工夫が多くされている. 特に,仕様表には表れにくい非機能要件として,「きびきび」動くということが重要となり, これが悪いと医師に使われないことが多いとのことだった. ダヴィンチは元々心臓外科手術を狙って開発されていたが,心臓外科手術では受け入れられない経験をしている. その後前立腺手術に転用できることがわかり,ビジネスとして成功したことが説明された. 手術支援ロボットにおいては応答性,操作性のしきい値というものがあり, それを超えないとユーザに受け入れられないと感じていることがご説明された.
 2つめの話題として,中楯先生がご自身の研究として取り組まれている軟性内視鏡マニピュレータに関するご紹介があった. 従来の手術では臓器の手術は切除するとその臓器は戻らないが,軟性鏡手術であれば,ピンポイントの切除で行われるため, 臓器は完全に回復することができる. 軟性鏡手術の難しさとして,内視鏡の先端にある小さな視野と一つの鉗子だけで施術することがご説明された. そこで,もう一つのハンドを追加する研究開発をされている .内視鏡は直径が小さくそれが制約となっているため,材料選定なども含めて難しさがある.
 最後に,医工連携に関するご説明があった.医療機器分野は,実用化しないと意味がないと言われる分野である. 実用化するためには,医療現場で現場観察をして,ニーズ調査を行う必要がある. 現場では専門用語が多いため,医学の勉強(例えば術式把握)が必要であること,医師に直接話を聞くことが重要であり, 事前の市場調査も必要である. 学術的に工学系の成果と医学系の成果の間の活動を誰が埋めて実用化までもっていくかが課題となっている. そこを埋めていくのが「医療創成工学専攻」の役割となっているとのことだった. わが国の医療機器開発の展開に非常に期待できるご講演であった.
(文責:M56西田)