11月09日 2024年 六甲祭協賛講演(報告)
令和6年度機械クラブ「機械工学先進研究」講演会(報告)
開催年月日
令和6年11月9日(土)13:30-14:40
開催場所
工学部本館 5W-301およびGoogle Meetによるハイブリッド開催
◆講演会…「機械工学先進研究」
(司会:浅野 等 教授)
○講演題目:「機械工学がマイクロ・ナノテクノロジーに果たす役割」
○講 師: 磯野 吉正 教授
講演内容:
初めに磯野先生のご略歴についてのご紹介があった.立命館大学大学院理工学研究科博士前期課程在学時には,ガスタービンに適用するための高温強度材料に関する研究に従事された.修了後の1991年,三菱重工業に入社され,工作機械事業部において,工作機械の設計や歯車工具の設計に従事された.1993年に立命館大学理工学部の生産工学研究室に助手として採用された.赴任当初は分子動力学を利用した切削加工時の材料変形のシミュレーションや第一原理に基づくダイヤモンド工具の物理特性について研究された.1999年から2000年にはオハイオ州立大学において在外研究に従事された.それまではシミュレーションを用いた研究を実施されてきたが,実験が好きでモノを作りたいという思いを持っていたため,モノを作ることと現象を解明することの二つを研究の軸にしたとのことであった.また1990年代からMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の研究が登場し始めたことや,シミュレーションでは起こるメゾスコピックな現象が実際に起こるのかということを実証したいという思いがあり,1999年からMEMSの研究を開始された.AFM(Atomic Force Microscope)を使ったナノ・マイクロスケールの材料の強度評価,MEMSデバイス上における応力付加時の物性変化,AFMを使ったナノリソグラフィなどを実施された.
次に神戸大学着任後の研究をご紹介いただいた.神戸大学着任後は,MEMSデバイス開発に関して3つの研究領域(環境・エネルギー,ロボット・制御,医療・生体診断)を対象とされてきた.環境・エネルギー分野においては,水素貯蔵タンクからの水素漏れを検知するセンサの開発についてご紹介された.水素貯蔵タンク内側の水素を覆う内壁とタンク外側の外壁との間の真空層において,内部からの水素と外部からの空気(窒素)の漏れを識別して検知する共振型センサを開発された.振動するナノサイズの間隙にカーボンナノチューブを形成させ,カーボンナノチューブに水素もしくは窒素分子が吸着することにより,振動周波数の変化率からガスを検知する.水素と窒素は分子量が7倍異なり,クヌッセン数が非常に小さいため,識別できるとのことであった.ロボット・制御分野においては,医療用ロボット用柑子の先端にMEMS力覚センサを取り付け,柑子が掴んだものの感触を評価する試みについてご紹介された.開発されたセンサは300mm程度の大きさであり,従来のセンサの1/3程度の大きさとなった.感触の評価については材料の粘弾性を考慮したモデルを用いて,センサの出力信号から変位と荷重を推定できることを明らかにした.医療・生体診断分野については,カテーテル用触覚センサや呼気診断用赤外線分光センサの開発についてご紹介いただいた.赤外線分光センサについては,中赤外線領域において検出できる赤外線分光センサを開発しているとのことであった.強誘電体を材料として用いることで,光の吸収に伴う温度上昇により電流が流れ,その電流変化を計測する方法であるとご説明いただいた.最後に,センサ素子として低次元ナノ半導体の利用可能性を探るための応力誘起物性を解明する研究についてもご紹介いただいた.
ご講演全体を通して,MEMSの研究は機械工学を基盤として,電磁気学,固体物理学,半導体工学などを組み合わせたマルチフィジックスな領域であることが強調された.様々な研究・産業領域へのMEMS技術の展開が非常に期待できるご講演であった.
(文責:M57 栗本)