03月25日 2024年度 総会記念講演(報告)
令和6年度神戸大学機械クラブ総会
総会記念講演会
○日 時:令和7年3月25日(火)15時00分~16時10分 ○場 所:工学部本館5W-301 ○司 会:玉屋 登 会長 |
講 演 会 |
講演題目 : 「国際液化水素サプライチェーン構築への取り組みと脱炭素への貢献」 |
講 師 : 井上 健司 氏 (川崎重工業(株)) 理事 エネルギーソリューション&マリンカンパニー営業本部 水素プロジェクト室長 |
略 歴 : |
1984年 神戸大学工学部機械工学科卒業 1986年 神戸大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程修了 1986年 川崎重工業入社 |
講演内容: |
はじめに卒業生および修了生に向けて,お祝いのお言葉をいただき,自身の自己紹介をされた.オートバイに高校生の頃から乗られており,オートバイに関する仕事ができることに期待して川崎重工業に入社された.期待したオートバイに関する仕事ではなく研究所に配属されたものの,研究の仕事がおもしろかったとのことであった. 次に会社の概要をご説明いただいた.陸海空の大型輸送機器,ガスタービン,産業ロボット,オートバイ及びオフロード四輪車が現在の主力事業とのことであった.また今後注力していく事業が紹介された.その一つがシスメックスと協業している手術ロボット「hinotori」であり,手塚治虫の大ファンであった社長が手塚プロダクションから許可を得て命名した逸話が紹介された.他にも無人ヘリコプターや医療現場における無人搬送ロボットについて紹介された.特に注力していく事業が「水素サプライチェーンの構築」とのことであった. 川崎重工が水素を手掛け始めたのは2010年であった.研究所内の将来テーマ企画において,他の重工業企業に比べてエネルギー分野が弱かったことや将来CO2排出問題が大きくなることから,水素に関する事業がスタートした.そして,水素に関する一製品を扱うのではなく,水素を「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」までを網羅したサプライチェーンを目指したとのことであった. これまでに川崎重工業で製造された水素関連製品について説明された.H3ロケット用水素タンク,トルクメニスタンにおける天然ガスから改質した水素から肥料を製造するプラント,HySE(Hydrogen Small mobility & Engine technology)の取り組みとして2024年のダカールラリーにおいてカーボンニュートラル部門で2位となった水素エンジンを搭載した四輪車について紹介された.さらに,水素レシプロエンジンを搭載したオートバイについては,オートバイと過給機の技術を持つ川崎重工業だからこそ最適設計ができたと説明された.開発のプロジェクトマネージャーも神戸大学の機械工学科をご卒業されたとのことであった. 次に,水素サプライチェーンに関してご説明いただいた.川崎重工業はKawasaki地球環境ビジョン2050を設定し,CO2を発生しない製造,CO2の排出を大きく抑制した製品を目指している.直近の目標として,2030年までに国内工場をカーボンニュートラルにすることを計画しており,水素ガスタービンによる発電,CO2の利用などを想定している.水素サプライチェーン事業開始当初,水素の精製として天然ガス,石炭,石油からの改質を計画していた.最終的には,太陽光・風力などの再生可能エネルギーを用いて電解により水素を精製することを想定している.水素の国際輸送実績がなかったため,輸送に関するプロジェクトが開始し,世界初の液体水素運搬船であるすいそふろんてぃあが開発された.水素運搬船の開発自体よりも国際海事機関の承認を得ることのほうが大変であることも紹介された. 水素利用についての国の動きとして,2011年に東日本大震災が発生したことにより,原子力発電所の停止やグリーン電力の必要性から水素が着目され始めた.そして,2014年にエネルギー基本計画に水素について初めて記載された.2024年には水素社会推進法が成立している.2030年頃には水素サプライチェーンをスタートさせることを要望されており,そのためには船の大型化,基地の大型化が必要となっており,その開発が進められていると説明された. 民間の動きとして2017年ダボス会議において,国内外13社を集めてHydrogen Councilを結成した.その後様々な企業の参画を募集し,現在は150社(2023年1月)が参画している.世界では現在総額100兆円規模のプロジェクトが動いていると説明された. 最後に卒業生および修了生に向けて,自己利益を優先する風潮があるが,ビジネスを長く続けていくためには三方良しの精神が必要があることが伝えられた.また,色々なことにチャレンジしてほしいとの激励のメッセージがあり,講演を締めくくられた. |
(M57 栗本)


